コード・サプライズジューンブライド(後編)

文フリに関しましては、忙しかったという思い出しかない。

みんなよく頑張りました。
ありがとうございました。
たくさんの人にご挨拶出来てよかったです。
あと、一回、こんこんさんを使いっぱにしましたね。悪いとは思ってます。ほんと助かりました。

サプライズに関しては、ほんとにでるこん日記をよめば補完出来るので、私からは裏話を、と思います。

終盤、イラストちゃんに来て頂いて、しっかり撤収をお手伝い頂いて(ほんとすみませんほんとありがとうございます……)お店の場所を聞き、みなさんと離脱。
ここでホテルに戻り、荷物を受け取って、ロビーで黒板にウェディングメッセージを書いてもらう。
とにかく荷物がたくさんあったので(今回長旅だった)
駅に荷物を預けて、わたくしはケーキの調達へ。

ぺむちゃんがいくつか調べてくれていて、その中でもフルーツが美味しそうなところに行ったら、あんのじょう超★イチゴデコレーションされたホールケーキがあったので即決。
「バースデーと、ウェディング、二枚のプレートつけていただきたいんですが、可能ですか?」
「こちらとこちらになりますが……どうなさいますか?」
「あ、じゃあ、それぞれのプレートに、こういう名前を書いてください。」

近くにあったメモに、ウェディング:でるた バースデー:こんこんと書いて渡す。
こんこんさん、女の子と見紛うハンドルネームで本当によかったね!!!
ちなみに、見ていたイラストちゃんが、
「でるた×こんこんって書くのかと思いました……」
とのたまわっていましたが、おねえちゃんはきかなかったことにしてあげました。

そして披露宴打ち上げ会場に遅れて到着。
こそこそと店の人にケーキを渡し(この時点で、DkKを奥に置いといてくれて本当に助かりました)
ここでようやく、この会場で初めて会った方とご挨拶。今回この方だけがゲストだったわけですが、これから結婚式がはじまるわけで、すごく心配なことがあって、とりあえず、
「Dkって、どこまでわかっていらっしゃってますか……?」
と聞いたところ、ぺむちゃんがほとんどげろってたので問題なし。


あと驚いたのが、同じ会場にうさみ編集長が別の打ち上げをしてらっしゃったこと。うけた。
しかし、この配置、都合がよかったので、存分に使わせてもらうことにしました。

ともかく早急に仕上げなきゃいけないという懸案が寄せ書きで、各々トイレに行くフリをして書いてもらうことに。ちらちらとメモを渡して、音海さんはすみやかにミッションをクリアしてくれたのに、ぺむちゃんは「普通にトイレいっちゃった……」とか安定のぺむ子可愛かったです。

遠方からメッセージを送ってくれたみなさんも、本当にありがとうございました。心から感謝です。

ここでちょっとしたハプニングがあって、お店の方から、「誕生日の方がいらっしゃるとのことでーー!」と大きな刺身の盛り合わせが。わてわてとしながら、「まあこんこんさんの誕生日は昨日のゆーすとで終わったけどね!!」とけなげにごまかす私がいました。

なんとか全部書き終わったので、寄せ書きの紙を黒板に貼る作業。
これ、どこでも出来ないので、やったのが、うさみさんのテーブルの足下という。うまいこと、低くなっててね。すごく都合がよかった。
この辺ででるたんはなんとなく、なにしてるんだろうと気づいていたようですが、まあ、やってる内容は想定外だろうからよし。
「ケーキが出て来たら持ってきて下さいね!」とうさみ編集長にお任せし、準備は万端。着席。

本日ゲストの方がこれからのサプライズを知らないので、「料理もういい? まだ頼む?」とかお尋ねになるので、せこせこと、名刺の裏に、「今からケーキが出ますよ」というメモを書いてお渡しする。
ちょっと驚いてたけど、ちゃんと理解してくれてOK。

いよいよサプライズ。
誰かから、どうしてろうそくは30本ないのかと聞かれたのですが、プレート優先ということでひとつ。
詳細はやはりでるこんなのですが、覚えていることを箇条書きに。

・寄せ書きは最後DKの二人とゲスト様に一筆いれていただいて完成。
・ここで「惚れたって言えよ」って書いたDさんは本当に心から尊敬する。
・ふーってやってろうそく吹き消すの、駄目かなって思って言ったのに、ほんとにやった。心から尊敬する。
・ケーキ入刀。三人で!! というリクエストに、ほらよ、とすでに投げやりなでるたさん。「ぜったい無理」というこんこんさん。焦れたコモリさんが、がし!!! とこんこんさんの手をつかんででるたさんの上にのせて握らせた。心から尊敬する。神。
ファーストバイト……はさすがにちょっと恥ずかしいだろうなーって思って、強制しなかったんだけど、「チョコレートプレート、二人のですよ。食べて下さいね」って言ったら、でるたんが、「え、こんこんさんのプレート食べればいいの?」って食べてた。心から尊敬する。っていうかなんなのばかなの?
・胸がいっぱいなのにみんな、ケーキも食べてくれてよかった。私も一口あーんしてもらった。(あんまり甘い物食べない)美味しかったですね。
・記念ストラップも喜んでいただけたみたいで、頑張りが報われました。やっぱり小さなものだけど、残るものっていいよね。8月6日。持ってきてね。
・そして何故か、店の方から、鯛のお頭づきが出てくる。さあ問題です。誕生日なのに、誕生日ソングではなく、結婚式ソングを合唱していた私達を、お店の人達はどんな風に見ていたでしょう? ちなみに相手は明らかに男二人です。 みんなに祝われるって、本当に嬉しいことですね。とっても美味しかったです。

総じて、急ごしらえのサプライズだったのに、みなさんのご協力があって、滞りなく、失敗なく、終えることが出来ました。委任の責任者としてとても満足です。あと、イラストちゃんは本当に、最後の最後までつきあってくれてありがとう。みんなイベントで疲れていたりしたのに、お世話になりました。遠くからメッセージくれたみなさんも。うさみ編集長も、自分の打ち上げあったのにありがとうございました。
二人は幸せものだと思います。
違った。二人は幸せになると思います。んん??
違うな。いや違わない。楽しかったです!!!!!!!!!!!
あ、私の誕生日、イラネーから!(爽)

コード・サプライズジューンブライド(前編)

文学フリマの用意をすすめていたある日、遠くのぺむこちゃんから着電。
曰く、
「いまでるたさんからDM来て、11日がこんこんさんの誕生日らしいからサプライズ的なものを一つよろしくと言われたんです。で、でるたさんにも内緒で、文フリ終わった後の打ち上げで、二人の婚約祝いみたいなサプライズにしてやろうと画策しているんですが……」

ほう。サプライズ。サプライズですか。
サプライズといえば。
わたくしの周囲では、驚かされる当人が泣いても決して殴るのをやめない、そういうことですね。

君はある日呼び出されて部屋の扉をあけたら、自分を除く全員がコスプレをしていたことがあるか?

しかもそのまま、手の込んだ(完全に台本がある)劇がはじまったことがあるか。私はある。

というわけで、これは、私なりのサプライズでお祝いをしなければならないなと思った次第です。
後悔はあとからすればいい。


ちなみにその時点で、Dkアンソロ表紙のレーターさんには、バースデーでるこんイラストを発注済みだったので、(彼女の方から、あるチケットのお礼に用意をしたいと聞いていた)すみやかにそれを組み込み、
ほとんど当日まで日がないこと、ぺむこちゃんが仕事で大変そうなこともあって、全面的に委託されることに。
とにかくイラストちゃんに、サプライズイラストを寄せ書き用に仕上げてもらう連絡をとり、当日持ってきていただけるように。
会場のお店の方にケーキはお願い出来るかと聞いたところ、持ち込みが出来るとのこと。好都合だ。
あとは可能であれば名前が入った記念のアクセサリーだ!!!
ということまで決めて、関東行きの夜行バスにのる。
この時点で、すでに文学フリマの前々夜。

前日は朝から美容院等の予定を済ませて、とにかく雑貨店を虱潰しに回る。
その中で、イラストさんの、寄せ書き紙があがってくる。

ただの神じゃねーの。
ほんとにこの子は!!!! 今度また美味しいお酒飲ませてあげるからね!!
この段階で、サイズは指定のA5。
どうしても、A5のフォトフレームが見つからず、少々困る。

雑貨屋さんに、駄目もとで、「コルクボードとか、ありませんか?」
そう聞いたら、「黒板ならありますよ」との答え。
黒板????

ん。いーじゃねえの。
白い紙は、ためしのA5サイズです。
わかりにくいですが、カレンダーもついてて、誕生日の日付もアピール出来るんですね。
まあ、誕生日っつうか結婚記念日ですけど。

ケーキは当日ということで、あとはプレゼントアクセサリーだけ。
アルファベットモチーフのアクセサリーって、一時期はやったけど、今は下火で、これをさがすのが難しかった。
ホントに、一文字だけのはよくあって、KはたくさんあったのにDがない。
つきあってくれた方に、「Dって名前なかなかないよ!」と言われつつ、なんとかヨコハマのロフトで、目的の、全アルファベットの組み合わせストラップを見つける。

ホントによかったーーー。

ホテルに戻ってせっせとつくるの図。
もちろん二つありますよ。
よかったよね、指輪じゃなくて。

ここまで終えた時点で夜も九時を回り、あとはもうustするくらいしか体力残ってなかったよね!!!
というわけで、運命の結婚記念日に続く。といっても、でるたんの日記が一番詳しいというカオスなわけですけどね。

DkK最終話(冒頭のみ)

 オルゴールでアレンジされた、クラシック音楽が流れる白い控え室。
「なんでこんなことに……」
 こんこんが腕時計を見ながら、憔悴したように呟いた。
「俺に聞くな」
 赤いネクタイの結び目に手をかけながら、でるたがため息混じりに呟いた。今にもほどいてしまいそうなその様子に、こんこんは伏し目がちな目を細めてぽつりと言った。
「――……逃げないで下さいよ」
「逃げたい。今、すごく」
 吐き捨てるようにでるたが言う。人間よりも鏡の数の方が多いその部屋は、ひどく落ち着かなかった。
「置いていったら、許しませんよ」
 淡々と、そんなことを言うこんこんに。
「じゃあ、」
 一緒に逃げる? というでるたの言葉が宙に消える。
 残るのは、いかんともしがたい――沈黙だけ。
 示し合わせたように、二人は同時に息をついた。
 でるたは黒のタキシードに赤いネクタイ。対するこんこんは、全身が白の、それ。鏡合わせというにはあまりに個性の強すぎる両人だが、ぴったりと息はあっていたと、言わざるをえない。あらあら二人ともすっかり……と誰かの笑い声まで聞こえてきそうだ。
「責任とれよ」
「どっちかっていうと、それを言うのは僕の方かと思うんですが」
 手に手をとって。
 逃げられたのなら、どれほどいいか。

 結婚式まで、あと、一時間。

学生DkK(書き直し第一稿)

 カーテンのはためく音が帆船のようだった。
(風が)
 放課後の図書室。ドアを開く音ともに風が吹き込んで、重量のある布を外へと押し出した。プリントが飛ばないように、こんこんは手を伸ばす。貸し出しカウンターの内側で、風の出所を探して入り口を振り返ると、細身の長身シルエット。相手はこちらの姿を見つけて、わずかにいやな顔をした。
 先に口を開いたのは、ドアを開けたでるたの方だった。
「はやいですね先輩」
「今来たところですよ、先輩」
 こんこんは眼鏡を戻しながらぼそりと答える。二人は同学年ではなかった。学年としてはでるたの方が一つ上だ。しかし、今年図書委員として入ったばかりのでるたは、図書委員二年目のこんこんを先輩と呼んでいる。
(きっと、嫌味だ)
 と、こんこんは思ってやまない。
 こんこんは今日配架予定の新刊本にルックスを貼り終えて、空気が入らないように定規をあてる。その本の色と形を、でるたは目に留めて。
「あ」
 足早に近寄ってくると、指先をつきつけた。
「それ、貸ります」
「そうですか」
 こんこんは飛びそうになったプリント束から一枚抜き出して、シャープペンと一緒に置いた。
「予約をどうぞ」
「え、なんで」
 でるたが眉をひそめた。なぜなら、とこんこんは言う。
「今からぼくが借りるから」
「だから。なんで?」
「読みたいからですけど」
「僕も借りたいんだけど?」
「予約をどうぞ? 今なら、二番ですよ」
 しかも、とこんこんは淡々と告げる。
「明日には返します」
 イラッとでるたが顔を歪めた。カウンターに両手をつけて、
「職権乱用なんじゃないですかね、こんこん先輩」
「そんなことありませんよでるた先輩。先に来たのはぼくです」
 教室は、自分の方がずっと近いけれど。ということはあえて口にはしなかった。
「こんこんさん、よく考えてみて下さい」
 ばらばらばら、と傍らのファイルを開いて、でるたはあるリストのページを開いた。
「あなたの借りている本は、こんなにある」
 でるたもこんこんも図書委員だ。この学校では、それぞれの委員会の雑務も重いが、その分利権もある。長期休暇でもない限り、通常の図書の貸し出し上限は一人五冊だが、図書委員はリストに書き込めばそれ以上を借りることが出来た。もちろん、二週間以上の延滞は出来ないが、予約者がいなければリストの日付を書き直すだけだ。
 でるたが図書委員に入った時、こんこんはすでに他の図書委員から「サウザンドマスター」と呼ばれるほどの読書量だった。
「そうですね」
 眠そうにまぶたを半ば伏せて、年に千冊を読む男・こんこんはもう一枚ファイルのページをめくった。
「先輩の借りている本は、こんなにあります」
 そこには、こんこんと負けず劣らず、ずらりと並んだ書名と日付。でるたは年間六百冊の読書量に加えて、詳細な感想も記すたちだった。
 二人はどちらも、互いに対して、思っている。
(どうかしてる)
 似たもの同士は惹かれ合わないというのがこの世界の不文律だ。このまま行っても平行線だった。こんこんはため息をつくと、拳を軽くあげた。
 ふっとでるたも笑い、自分のこぶしを出す。
「じゃん、」
「けん、」
「……ぽんっ」
 でるたが出したのはグーだった。そしてこんこんが出したのもグーだった。けれど勝敗はその一度でついた。
 軽い声で、最後に合図して、やわらかな手の平を開いて出した人がいた。
「あ、勝ったー」
 えへへ、と笑う。現れたのは一年生の図書委員だった。
「コモリ、さん」
 でるたが大きく目を見開く。にこにこと笑う、コモリは首を傾げて、「なにしてるの?」と二人の先輩に尋ねた。
 でるたは深くため息をついて。こんこんは、持っていた新刊を、粛々とコモリに渡した。
「コモリさんなら仕方ないな」
「仕方ないですね」
 渡された本を見て、コモリは顔を輝かせた。
「借りていいの、これ! わーい、読みたかったんだー!」
 けれどそこではたと気づき、コモリは長身のでるたを見上げる。
「で、でも、きっと一週間以上かかっちゃうよ……?」
 でるたは爽やかに笑って言う。
「明日の朝に返して下さい」
 その言葉にコモリは「き、きち……!」となにかを言いかけたが、慌てて本で口元を隠した。
 剣呑に笑う、でるたと怯えるコモリを、こんこんは笑いながら見ている。
 静かな図書館。本の感触。慣れた気配。それでも。
(どうかしている)
 そう思いながら。


 でるたが図書委員に入ったのは、本当に成り行きのことだ。「仕事をするより読書をしていたい」というでるたは、比較的仕事量の多い図書委員には見向きもしなかった。
 本を借りるのも事務的な作業。図書委員の顔など気にしたこともないし、そんなことよりも読みたかった本に抜けがないかに心を配る。
 食事をしている時も本を片手に読んでいるものだから、その様子にクラスメイト達は呆れ、引き、尊敬し、いつしかそんなものだと思うようになった。
 読む本を忘れた時など、自分の名前で本を借りてきてやろうかと言ってくれるほどだ。それには及ばないから丁重にお断りして、感想カードでも書いているのが常だけれど。
 放課後、いつものように本を選定していたでるたは、偶然聞こえた会話に、手を止めた。(でるたの場合はどれを借りるかではなく、どれから借りるか、である)
「こんこんってさー」
 図書室なのに大きい声だなと思ったのが、最初。
「本当すごいよな。毎日毎日。図書委員っつったって、俺絶対こんな読めねーよ。頭どうかなってんじゃねえの? それともほんとは眺めてるだけで読んでねえの? ほんとに読んでるならすごいよ」
 聞こえてきた言葉に、薄くため息をついた。ありきたりだと、思ったのだった。
 他人はいつも同じようなことを言う。そんな台詞が出てくる時点で、大して仲はよくないんだろうと、勝手な判断をした、その時だった。
「冊数じゃないですよ」
 ささやかな声が聞こえた。図書室に似合いの、低く、静かな声だった。
「冊数を読めば偉いってものじゃないです。物語は」
 知らず、手を、止めていた。
 片手に本を積み上げ、もう片手にも本を持ったまま、しみじみと、今聞いた言葉の響きを噛みしめていた、その時だった。
「ふーん。でもさあ。こんこんって年に何冊くらい読むの?」
 その質問に、耳をそばだてたのは、別に、下世話ではないと、思いたい。
 百? 二百? 三百を超えれば、日に一冊の計算だ。十分な読書量と言ってもいいだろう。
「……数えたことなんて、ありませんが……」
 こんこんと呼ばれたその声は、躊躇いがちに、一層声をひそめて、ぼそぼそと言った。
「今年の貸し出し記録は、そろそろ千、ですかね……」  
 音を立てて、でるたの手から本の束が崩れて落ちる。何冊かは足にも直撃した。
(しま……ってええええ!?)
 最後に新刊のハードカバーが、足の甲に落ちて、思わずでるたはしゃがみこむ。
(せん、さつ……!?)
 痛みと、それから痛み以外の、なにかの感情と。呆然としていたら、誰かの、気配。
「……あの……大丈夫、ですか?」
 顔を上げる。そこに見つける。眼鏡の、姿。
 季節は冬。スチームの音がしていた、三学期の終わり。
 でるたが図書委員会に入る、丁度一ヶ月前の話だった。

「なんで図書委員に入ったのかって?」
 なりゆきだよ、とでるたは言う。
「どうせ毎日図書室には行くんだし。それから、なにより、貸し出し冊数に制限がないからな」
 一年生のコモリさんも可愛いし。
 なりゆきだよ、とでるたは言うので。周りも、本人でさえ、そう思っているようだった。


 こんこんがでるたのことを知ったのは、でるたよりも前に遡る。
 この高校では、本をかりると任意で感想カードを提出することが出来る。それらはひとつづりにされ、卒業の時点で本人に戻される。
 基本的に外に出すものではない。自由に見ることが出来るのは、綴る本人と、棚の場所を知っている図書委員くらいのものだ。こんこんも、あえて人の感想を漁るような真似はしたことがなかった。その存在を見たのは、意図的なものではない。
 こんこんが図書委員になってすぐのこと。
(なんだ?)
 クラスごとに分けられた棚。その棚が、一つだけ、閉まらなくなっていた。それを見つけて、首を傾げて引き出しを開ける。
 なにかが引っかかっていたのかと思うが、開けてみてすぐにわかった。
 一人分が、いやに分厚くなって、入り切らなくなっていたのだ。
(誰だこれ)
 と思うが、二年生、という学年を見て、図書委員になって日が浅いこんこんにも、心当たりがあった。
(あの、背の高い……)
 毎日毎日、本を返しては借りていく、二年の先輩のものではないだろうか。一年と少しで、これだけの本の感想を書いていったというのか。
 一枚、また一枚と、感想カードをめくっていく。
(ぼくには出来ないことだ)
 読書量には自信があった。冊数だけなら、負けないのではないかとさえ思えた。それでも、これほど誠意をもって、本に向き合っているだろうか。
 それは、相手への羨望だったのか、己への落胆だったのか、それとも、もっと別の、未来への諦観だったのか。
(それでも、ぼくは)
 立ち尽くしながら、こんこんは思う。
(ひとつでも多くの、物語を)
 なんのために?
 わからないけれど。本を読むのだと、ただ、それだけをこんこんは思った。

「初めて図書委員会に入りました。でるたです」
 本を落としてうずくまっているところを見た時も驚いたけれど、こんこんが二年になって、彼が図書委員に入ってきた時にはもっと驚いた。
 隣に座る、でるたに、こんこんは躊躇いがちに、静かな声で言った。
「…………よろしくお願いします。先輩」
 するとでるたは、にこやかに笑んで言った。
「やだなぁ。学年は違いますけど、こんこんさんの方が図書委員では先輩じゃないですか」
 そして顔を寄せて。耳元に囁く。
サウザンドマスター、なんでしょう? 先輩」
 …………正直な、話、イラッとした。


「でるた先輩」
「なんですか、こんこん先輩」
「仕事してくださいよ」
「僕この本を読むので忙しいので。こんこん先輩こそ、仕事して下さいよ」
「今ぼくはいいところなんで」
 二人とも、本から顔を上げることはない。
 テスト後の金曜放課後。図書館の人はまばらだ。利用客がいなくても、図書当番の仕事はあったりするのだけれど。
 それ以上に、本があるのだから、仕方ない。
「ところでこんこん先輩」
「なんですかでるた先輩」
「◎◎◎◎は読んだことがありますか」
 でるたが上げたのは、もうすぐ数年ぶりの最新刊が出る、とあるミステリ作家の名前だった。
 こんこんはかすかに嫌そうな顔をして。
「…………まだです」
「ナ・ナンダッテー」
「なんですか! だってあのシリーズ、二十冊近くあるじゃないですか」
「泣くなこんこん負けるなこんこん、全盛期のこんこんならポケットに入る量だ」
「はいらねーよ!」
 思わず顔をあげてしまったので、軍配はでるたにあがった。
 本から顔を上げない、横顔が、にやりと笑う。
 こいつ……と思ったけれど、こんこんは言わなかった。相手は一応、先輩であったから。
「ところで、でるた先輩」
「なんですか、こんこん先輩」
「ぼく先日、■■■■先生のサイン会に行ってきたんですけどね」
「また遠征か」
「今回は近場です」
「また雪か」
「降ってないです」
「自慢だったら、僕は特にサインに興味ないから」
 あれば欲しいけど、という言葉は呑み込んで。
「そうですか」
「なんだよ」
「実はその時に配られた小冊子に短編が」
 がばっとでるたが顔をあげる。
「コピー!!」
 ふ、とこんこんさんが笑った。
 その時だった。
「……すみません」
 女生徒が本をカウンターに本を出してきたので、でるたが慌てて、本を閉じる。
 読書カードと返却図書。それから。
「あの」
 躊躇いがちに、口を開いた。
「ちょっと、いいですか」
 言われたでるたが不思議そうな顔で、自分を指さす。こくんと頷く女生徒に、「いいよ」とこんこんは顔を上げていた。
「ここは、大丈夫ですから。どうぞ」
「……あ、そう?」
 でるたが立ち上がり。図書室の外に消えていく。残されたこんこんは、返却図書を戻しながら、感想カードを見る。名前まではチェックしなかったけれど、感想カードに書いてあった、落書きのような、黒い兎。それがとても可愛かったから。
「…………」
 こんこんは、ため息をついて、読みかけの本に、顔を戻す。
 五分だったのか、十分だったのか。なかなか進まないページ。
 やがてなにごともなかったかのように、カウンターはでるたが戻ってくる。
「…………」
「…………」
 本を開き、また読み出して。沈黙は、長くは続かなかった。他意はないけれど。決して、ないけれど。こんこんが、言う。
「可愛い子でしたね」
「コモリさんの方が可愛い」
 その答えに、ず、っとこんこんの肩がずれる。
「先輩……」
「なに?」
「……いいえ」
 言葉とともに吐く、ため息はさきほどよりも、軽いような気がした。
(どうかしてるな)
 こんこんは思う。本から顔を上げずに。それから、わずかに、諦めたように微笑んで、言った。
「コモリさん、可愛いですよね」
 言いながら、もう一度思う。
(……でも、どうしようもないな)
 その横顔を、でるたはずっと、眺めている。

 人もまばらな図書室。彼らに残された時間は決して、長くはない。
 いつか遠くない未来に、二人の時間は終わりを告げるのだろう。けれど、それでも二人は歩みを止めない。
 二人の時間は、読書に似ている。
 読み終わることが怖ろしいからといって、彼らはその手を、決して止めることはないのだ。

*****

 二年生のこんこん先輩と三年生のでるた先輩?
 うん、知ってるよ。同じ図書委員だもん。え、怖い? でるた先輩のこと? うーん、怖いかな。どうかなあ。ああそうだね。ちょっと、怖いところもあるかも。そうそう、きち……ってそれ、本人に聞かれたら、大変だから!
 僕? 僕は可愛がってもらってるから怖くないよー。時々ちょっとね、意地悪だけど。あれがでるた先輩の親愛表現なんじゃないかな。
 こんこん先輩は、静かだねー。委員会の集まりでも、いつも隅っこの方で、「ぼくはいいですから」って話を聞いてるよ。でも、別に喋りにくいってわけじゃないんだよ。うん。でるた先輩には、結構アグレッシブに行くよ。あの二人、なんだかんだいって、仲いいんだ。
 僕は二人とも尊敬してるよ。なんてったって、年に千冊読む先輩と、年に六百冊の感想を書く先輩だからね! でるた先輩が来てから感想も表に出してもらったりして、図書の貸し出し数だってうなぎのぼりだよ。
 え? でるた先輩が、ぼくのこと好きなんじゃないかって?
 あはは。面白いこと言うね。そうかも。嫌われてないかもって思うよ。でも、それを言ったら、こんこん先輩からだって嫌われてないと思うよ。
 うん、僕は二人とも好きだしね。
 でも、でるた先輩が僕のことを好き、っていうのは、なんだかちょっと納得いかないかなー。それは、こんこん先輩もね。
 そんな風に思うのはきっと、君が僕らのことをあまり知らないからじゃないかって思うんだ。でるた先輩も、こんこん先輩もね。見てたらすぐにわかるもの。いや〜な顔をしても、一番楽しそうなのは、誰と話している時なのかってね!
 えーわからない? 仕方ないなぁ。
 それじゃあ、図書室においで。僕らはいつでも、待っているよ!

学生DkK(1)

 カーテンのはためく音が帆船のようだった。
(風が)
 放課後の図書室。ドアを開く音ともに風が吹き込んで、重量のある布を外へと押し出した。プリントが飛ばないように、こんこんは手を伸ばす。貸し出しカウンターの内側で、こんこんが入り口を振り返ると、細身の長身シルエット。相手はこんこんの姿を見つけて、かすかにいやな顔をした。
 先に口を開いたのは、ドアを開けたでるたの方だった。
「はやいですね先輩」
「今来たところですよ、先輩」
 こんこんは眼鏡を戻しながらぼそりと答える。二人は同学年ではなかった。学年としてはでるたの方が一つ上だ。しかし、今年図書委員として入ったばかりのでるたは、図書委員二年目のこんこんを先輩と呼んでいる。
(きっと、嫌味だ)
 と、こんこんは思ってやまない。
 こんこんは今日配架予定の新刊本にルックスを貼り終えて、空気が入らないように定規をあてる。その本の色と形を、でるたは目に留めて。
「あ」
 足早に近寄ってくると、指先をつきつけた。
「それ、貸ります」
「そうですか」
 こんこんは飛びそうになったプリント束から一枚抜き出して、シャープペンと一緒に置いた。
「予約をどうぞ」
「え、なんで」
 でるたが眉をひそめた。なぜなら、とこんこんは言う。
「今からぼくが借りるから」
「だから。なんで?」
「読みたいからですけど」
「僕も借りたいんだけど?」
「予約をどうぞ? 今なら、二番ですよ」
 しかも、とこんこんは淡々と告げる。
「明日には返します」
 イラッとでるたが顔を歪めた。カウンターに両手をつけて、
「職権乱用なんじゃないですかね、こんこん先輩」
「そんなことありませんよでるた先輩。先に来たのはぼくです」
 教室は、自分の方がずっと近いけれど。ということはあえて口にはしなかった。
「こんこんさん、よく考えてみて下さい」
 ばらばらばら、と傍らのファイルを開いて、でるたはあるリストのページを開いた。
「あなたの借りている本は、こんなにある」
 でるたもこんこんも図書委員だ。この学校では、それぞれの委員会の雑務も重いが、その分利権もある。長期休暇でもない限り、通常の図書の貸し出し上限は一人五冊だが、図書委員はリストに書き込めばそれ以上を借りることが出来た。もちろん、二週間以上の延滞は出来ないが、予約者がいなければリストの日付を書き直すだけだ。
 でるたが図書委員に入った時、こんこんはすでに他の図書委員から「サウザンドマスター」と呼ばれるほどの読書量だった。
「そうですね」
 眠そうにまぶたを半ば伏せて、年に千冊を読む男・こんこんはもう一枚ファイルのページをめくった。
「先輩の借りている本は、こんなにあります」
 そこには、こんこんと負けず劣らず、ずらりと並んだ書名と日付。でるたは年間六百冊の読書量に加えて、詳細な感想も記すたちだった。
 二人はどちらも、互いに対して、思っている。
(どうかしてる)
 どうせこのまま行っても平行線だった。言い争っても仕方ない。こんこんはため息をつくと、拳を軽くあげた。
 ふっとでるたも笑い、自分のこぶしを出す。
「じゃん、」
「けん、」
「……ぽんっ」
 でるたが出したのはグーだった。そしてこんこんが出したのもグーだった。けれど勝敗はその一度でついた。
 軽い声で、最後に合図して、やわらかな手の平を開いて出した人がいた。
「あ、勝ったー」
 えへへ、と笑う。現れたのは一年生の図書委員だった。
「コモリ、さん」
 でるたが大きく目を見開く。にこにこと笑う、コモリは首を傾げて、「なにしてるの?」と二人の先輩に尋ねた。
 でるたは深くため息をついて。こんこんは、持っていた新刊を、粛々とコモリに渡した。
「コモリさんなら仕方ないな」
「仕方ないですね」
 渡された本を見て、コモリは顔を輝かせた。
「借りていいの? これ。わーい読みたかったんだ」
 けれどそこではたと気づき、コモリは長身のでるたを見上げる。
「で、でも、きっと一週間以上かかっちゃうよ……?」
 でるたは爽やかに笑って言う。
「明日の朝に返して下さい」
 その言葉にコモリは「き、きち……!」となにかを言いかけたが、慌てて本で口元を隠した。
 剣呑に笑う、でるたと怯えるコモリを、こんこんは笑いながら見ている。
(どうかしている)
 そう思いながら。








どうかしてるのは私だよどうしてでるたがこんなに受けっぽいんだよ。

読書

「恰好の良さに理屈も理由もない! 俺を見ろ! これが恰好いいってことだ。だろ?」

男装の軍人と暴君! 男装の軍人と暴君!! 男装の軍人と暴君!!!! \(^o^)/

 いやいや、男装、とはちょっと違うのですが、
 理想的な麗人でした。
 やはり男よりも美しくなければ、男と見まごう甲斐がない、と思います。
 そんな主人公。

 海軍、帆船、海のうえ、の物語。
 ひとりでは動かせない船にのるのは、魅力的な仲間達と、そしてその仲間達に愛されるに足る、暴君の船長。
 個人的に、船員達がみな、船長にまさに命令と命を預けている、という図式が胸に迫りました。
 海の上ですが、もっともっと続きが読みたいと思わせる物語です。
 とってもよかったです。



「――私、置いていかれるのは、嫌」

 一巻でずっと気にしていたのになかなか見せ場がなくて、きっと、きっと……!! と思っていたレーン号のソナー、ルーナ・ノア。
 当たり前のようにとても好みでした……。
 いいな……。とてもいい……。
 ルナとロディアがいちゃついていると、どちらかというと百合ではなく薔薇な姿なのがおかしいです。
 カロルがうざいです。(好きです)
 やはり男装の麗人は女装もせねばなりませんなぁ。趣深いですなぁ。しみじみ。


 読みながら、終わってしまったらどうしよう! と思っていました。
 ドキドキ。
 でも次にも本があるから、大丈夫。
 一気読みするには、清々しい分量なので、オススメです。
 最後まで、ぶれず、ロディアが一番美しくてモテモテです。あったりっきです。暴君も形無しですね。
 カロルを……ぼこぼこにしたいです……(好きです)
 巻を重ねるごとに、人物達の愛と魅力も増すので、是非どんどん読みたいです。
 もちょっと、色っぽいことにも今後は期待です。楽しみ。


 あとあと、全編にわたって、イラストが超絶美麗です。
 外れは一枚もありません。
 これはすごい。
 結婚してほしい。

もう一枚モノクロ発注

でるた・こんこんの図書室

サイズ:A5を縦半分、一回り小さいくらい
枠線有り・モノクロ

高校生のでるた・こんこんが図書室の長机の端と端に座り、
黙々と本を読んでいるだけの絵。
後日両方に吹き出しが入り、吹き出し漫画に出来るようにする。
基本のキャラクター造形は表紙と同じ。
制服は学ラン。
視線はあくまで本。
後ろは書棚である必要なし。ただし、長机の上・脇に本がつみあがっていればなおよし。