DkK最終話(冒頭のみ)
オルゴールでアレンジされた、クラシック音楽が流れる白い控え室。
「なんでこんなことに……」
こんこんが腕時計を見ながら、憔悴したように呟いた。
「俺に聞くな」
赤いネクタイの結び目に手をかけながら、でるたがため息混じりに呟いた。今にもほどいてしまいそうなその様子に、こんこんは伏し目がちな目を細めてぽつりと言った。
「――……逃げないで下さいよ」
「逃げたい。今、すごく」
吐き捨てるようにでるたが言う。人間よりも鏡の数の方が多いその部屋は、ひどく落ち着かなかった。
「置いていったら、許しませんよ」
淡々と、そんなことを言うこんこんに。
「じゃあ、」
一緒に逃げる? というでるたの言葉が宙に消える。
残るのは、いかんともしがたい――沈黙だけ。
示し合わせたように、二人は同時に息をついた。
でるたは黒のタキシードに赤いネクタイ。対するこんこんは、全身が白の、それ。鏡合わせというにはあまりに個性の強すぎる両人だが、ぴったりと息はあっていたと、言わざるをえない。あらあら二人ともすっかり……と誰かの笑い声まで聞こえてきそうだ。
「責任とれよ」
「どっちかっていうと、それを言うのは僕の方かと思うんですが」
手に手をとって。
逃げられたのなら、どれほどいいか。
結婚式まで、あと、一時間。